自民党改憲草案 所見 
前文
現行憲法には、第二次世界大戦の反省と主権が国民にある事、自国の事だけを考えるのではなく、世界中から専制と隷従、人種差別をなくそうという事が書いてある。
改憲草案には、国民主権と三権分立、諸外国との友好関係を深める事、世界の平和と繁栄への貢献、国民が国土を守り、家族と国家が助け合い、国家を繁栄させ、伝統を継承する事が書いてある。
双方を比べると世界の問題を解決しようとする意志がなくなって、自国の繁栄と伝統継承が強調されている。 世界については、友好関係と平和と繁栄と書かれてあるが、現状のように一部の国々とだけ仲良くやろうという意味に捉える事もできる。
個人的には、世界から専制と隷従、人種差別だけでなく、貧困もなくしてもらいたいくらいだ。

第1条
天皇が、国の象徴から、元首になった。
草案には、『日本国及び日本国民統合の象徴』とも書いてある。
しかし、元首とは国家を代表する資格を持った国家機関の事だが、天皇は国際会議に参加できないため、誤解を招きかねない記述だ。
天皇の国際的な役割は、親善と発言くらいのもので、代表機関とは呼べないのではないか。
現憲法の『国民統合の象徴』も現実として、国民が何について統合されているのかが不明だ。
外国との戦争のための団結を意味しているとしたら、この記述は第9条の平和主義に反する。

第3条
草案は、国旗と国歌を定め、国民にこれらを尊重する義務を与えている。
しかし、それらを尊重したくない国民がいた時、第19条の思想の自由と矛盾するという意見がある。

第4条
草案は、元号の規定をしているのだが、慣例として元号は既に存在しており、わざわざ、憲法に入れる必要はないのではないか。

第5条
草案では、天皇が憲法に定められている国事以外もできると受け取れる記述になった。
これは、天皇権限の強化であり、危険だ。

第6条
『助言と承認』が『進言』になった。
天皇が内閣の承認なしに国事ができるようになり、権限が強化されている。
衆議院解散が、内閣ではなく首相の進言になっているのは、首相権限強化だが、既に慣例になっている。
草案には、国内の式典出席や公的行為も追加されているが、公的行為が具体的に何を意味しているかが分からず、この条目で具体的に定められている国事が無効化されている。

第9条
戦力保持と交戦権放棄が消え、自衛権が認められるようになった。
これは、1954年の憲法拡大解釈で実施済みだ。
ただし、『陸海空軍を保持しない』という記述が消えているのは、第9条の2で国防軍が創設されるからだ。
自衛のための交戦権だけでなく、外国での戦争が許可されているのも同様だ。

第9条の2
法律に沿い、国会で承認されたら何でも出来る軍隊の創設が可能になった。
法律は、拡大解釈が可能だから、あまり当てには出来ない。
国会承認も議員の顔ぶれ次第では戦争を回避できない。
軍法会議も復活した。

第9条の3
国に領域を守る義務が課せられた。
憲法改正は難しいため、近隣諸国との領域問題で妥協点を見出せなくなり、交戦の可能性が大きく高まる。

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『公共の福祉』が、『公益及び公の秩序』に置き換えられた。
憲法が国民に保障する思想や表現などの自由と人権や財産権などの権利が、公益及び公の秩序に制限されるようになった。
福祉は、社会生活の安定や幸福を意味するが、公益は、領土問題や国富も含み、それらのために個人の自由と権利が制限される事になり、徴兵制や財産没収の布石ともなり得る。
公の秩序は、政策や現行の国家イデオロギーも含むが、どんな政策やイデオロギーを支持するかは国民一人一人違うから、思想や表現の自由に反する。
具体的には、共産主義やデモなどが認められなくなる可能性がある。
ジャーナリストが危険地帯に行けなくなる可能性もある。

第14条
栄誉、勲章などの栄典に一代限りだが、特権が認められるようになった。
戦勲の事か。

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選挙には、日本国籍が必要になった。

第18条
『いかなる奴隷的拘束も受けない』が『社会的又は経済的関係において身体を拘束されない』になっており、不拘束要件が限定されている。
98条で簡単に非常事態宣言ができる上に、第99条で国民はお上に従わなくてはならないから、ここに(国民だけでなく)誰も徴兵されない旨も入れるべきだ。

第19条の2
個人情報保護法が加わった。

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宗教団体が、政治上の権力を行使しても良くなった。
これは、政教分離では無くなった事を意味する。
現憲法では、国によるあらゆる宗教教育を認めていなかったが、草案では、特定の宗教ではなく、社会的儀礼や習俗的行為なら、許可されるようになった。
これは、国家神道の復活を意味する。
神道は、民俗信仰とされているからだ。
公金その他の公の財産が、国家神道に使えるようになった。

第21条の2
国に国政説明義務が課せられた。

第22条
日本国籍保有者だけが、国外移住と国籍離脱の自由を持てるようになった。
これでは、外国籍保有者は、国外移住ができなくなる。

第24条
国民に、家族を尊重し、家族は互いに助け合えという義務を課している。
これは、思想と信教の自由に反している。
婚姻が、両性の合意に基づかなくてもできるようになった。
第三者に強制される婚姻を可能とする解釈が可能だ。
国際的時流に合わせるなら、同性婚も認め、『両者の合意のみに基づいて』にすべきではないか。
個人の尊厳と平等に立脚されるべき事項から、配偶者の選択と住居の選定がなくなって、扶養と後見が追加された。
配偶者の選択と住居の選定に当事者の意思と性別の平等が認められなくなった。
現憲法のこの条目は婚姻の規定だったが、草案では、親族の規定も追加され、婚姻の規定が破壊されている。

第25条
『すべての生活部面』が『国民生活のあらゆる側面』になっており、国が、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めるのが、日本国籍保有者に対してだけになった。
外国籍保有者は除外されるようになったと受け取れる。
あからさまな右傾化・排外主義だ。

第25条の2
国に環境保全義務が課せられた。
環境保全の定義が曖昧だ。
環境問題は、既に常識になっており、わざわざ憲法に入れる必要があるのか。
神社本庁主催の宗教的環境保全同盟も引っかかる。

第25条の3
国に緊急事態において在外国民保護義務が課せられた。
「在外国民」という表現によって、国民とは、日本国籍保有者という意味である事が分かる。
これで、身代金が払いやすくなる。
救出に向かうよりも身代金を払う方が生存確率は高まるから、憲法で、先ず、身代金を払い、それでも駄目なら救出に向かうと手順も記すべきだ。
生存確率が下がる方を先に選択するなら、この条目は嘘になる。
自衛隊が向かうなら、戦争したいだけだ。
現在、邦人捕虜救出のための自衛隊派遣が検討されているが、現場に到着するまでに見つかってしまうから、無理であり、機動隊までで止めて置くべきだ。

第25条の4
国に犯罪被害者保護義務が課せられた。
近年、マスメディアで被害者保護が注目されている。
秋葉原通り魔事件の犯人の弟の自殺を考えると加害者家族についてもある程度考慮されるべきではないか。
「秋葉原通り魔事件」そして犯人の弟は自殺した - 来栖宥子★午後のアダージォ
「死ぬ理由に勝る、生きる理由がない」 - 来栖宥子★午後のアダージォ

第26条
国に教育環境整備義務が課せられた。

第28条
公務員の団結権が制限または剥奪された。

第29条
知的財産権は、国民の創造力が上がるように設定されるべきとあるのは、尤もな意見だ。

第33条
逮捕令状を出すのが、権限を有する司法官憲から裁判官になった。

第34条
@理由を直ちに告げられる
A直ちに弁護人に依頼する権利を与えられる
B正当な理由がある
現憲法では、以上の全てが充たされないと抑留や拘禁ができなかったが、草案では、どれか一つを充たせば可能となると誤解されかねない下手な文章になっているから、「正当な理由があり、その理由を直ちに告げられ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留、又は拘禁されない」に書き換えるべきだ。

第47条
国政選挙における一票の格差是正が盛り込まれた。
地方に不利になる。

第52条
通常国会会期が法律で定めれられる。

第53条
臨時国会召集期限が設定された。

第54条
第6条にもあったが、衆議院解散は、首相が決める。

第63条
首相とその他の大臣は、忙しい時は、国会を欠席してもよくなった。

第64条の2
政党は不可欠と書いてあるのだが、これは主観であり、余計だ。
政党活動は公正であるべきだが、国にその発展義務を課す必要はない。
政党の政治活動の自由は保障するとあるのだが、無所属でも保障されるべきだ。

第65条
行政権は、この憲法に特別の定めのある場合は、内閣に属さなくなった。
草案で拡張されたのは天皇権限だが、天皇に残りの行政権が委譲されたのか。

第66条
首相とその他の大臣は、軍歴者はなれなかったが、現役でなければなれるようになった。
2012年の野田政権では、森本防衛相が元自衛官だったそうだ。

第70条
首相が病死した時は、他の大臣が代理を務めるようになった。

第72条
首相は、各省庁の総合調整役と国防軍の最高指揮官を務めるようになった。
軍歴者が首相に就けば、東条英機の再来だ。

第73条
内閣は法律案も作成するようになった。
また、内閣の制定する政令は、憲法に基づかなくても良くなり、義務を課したり、権利を制限したりする事はできないが、罰則を設けることが出来るようになった。

第75条
『訴追』が『公訴の提起』になったが、同じ意味だろう。
『これがため、訴追の権利は、害されない』と『国務大臣でなくなった後に、公訴を提起することを妨げない』も同じ意味だろう。

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『終審』が『最終的な上訴審』となっているのは、軍法会議に上訴審をなくし、別扱いにするためか。

第77条
検察官だけでなく、弁護士やその他の裁判に関わる人々も最高裁判所の定める規則に従わなくてはならなくなった。
これは、仕事上必要な事か。
必ずしも必要でないなら、内閣の任命を受ける最高裁判所に権限を集中させすぎるのは、三権分立の観点から危険だろう。

第79条
最高裁判所裁判官の国民審査が、憲法で10年ごとに受ける義務が課せられていたのがなくなり、法律で定められるようになる。
最高裁判所裁判官の報酬が減額されるようになった。

第80条
下級裁判所裁判官の任期が、憲法で10年ごとになっていたのがなくなり、法律で定められるようになる。
下級裁判所裁判官の報酬が減額されるようになった。

第82条
『対審』が『口頭弁論及び公判手続』となっているのは、同じ意味だろう。

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国と地方自治体の財政健全性が法律で定められるようになった。

第86条
内閣は、いつでも補正予算を組めるようになった。
予算は、翌年度以降の支出も認められる様になった。
財政に融通を利かせやすくなる反面、財政健全化にはマイナスに働く。

第90条
内閣が、国の収入支出決算を次の年度に国会に提出する際に、法律に従わなくてはならなくなったのは、文章として可笑しい。
内閣に決算検査報告を次年度予算に反映させ、国会へ、その説明をする義務が課せられた。

第91条
内閣は毎年、国の財政状況を国会に報告するが、国民へは報告しなくて良くなった。
国のホームページで閲覧できなくなるという事だろう。
国民による国家財政監査が気軽に出来なくなる。

第92条
地方自治体に住民が積極的に参画し、税制負担する義務が課せられた。
地方自治体には、住民に対し、サービスを等しく提供する義務はない。
義務は住民にのみ課せられる。

第93条
広域地方自治体の構築が義務付けられ、それを法律で定められるようになった。
国と地方自治体の役割分担が法律で定められるようになった。
「国及び地方自治体は、協力しなければならない。地方自治体は、相互に協力しなければならない。」という文章は可笑しく、「国及び地方自治体は、相互に協力しなければならない」と書き換えるのが適切だ。

第94条
地方自治体が、『議事機関』から『条例その他重要事項を議決する機関』になり、権限が縮小している。
地方自治体の長、議会の議員及びその他の公務員には、日本国籍が必要になった。

第95条
地方自治体から、財産を管理したり、行政を執行したりする権限が剥奪された。

第96条
地方自治体の経費は、地方税その他の自主的財源で賄うのを基本とし、国は法律に従ってその補助をすると決められた。
しかし、地方自治体のサービスと地方税の内訳が国の法律で定められ、それで賄えない場合も、自主財源で賄えと言うのは無理難題だ。
地方税と国税の比率に地方自治体が干渉できないのであれば、地方自治体のサービスを地方自治体が決められるようにして、足りないサービスは国が行うべきではないか。
地方自治体が国税に関われるようにする手段として、国会に上・下院制の導入が考えられる。

第97条
現憲法の特別法は、各地方自治体が独自に決められる法律という定義だが、草案のそれは、地方自治体運営上の法律だけでなく、住民に義務を課し、権利を制限する法律まで認めている。
しかし、それは、憲法の国民に与える種種の自由や権利、第18条などを侵害するため、矛盾する。

第98条
首相が、緊急事態を宣言できるようになった。
参議院で否決されても衆議院で可決されれば、宣言できる。

第99条
緊急事態宣言後は、国民は国や公的機関の指示に従わなくてはならない。
ただし、基本的人権は最大限尊重される。

第100条
憲法改正は、各議院で三分の二以上必要だったのが、過半数でできるようになった。
国民投票は、特別国民投票か国政選挙だったのが、法律で定められた国民投票になった。
憲法で定めずに法律で定められるようにしたのは、簡単に国民投票法を変更できるようにするためだろう。
例えば、投票年齢を変更するとか、簡略化するとか。
天皇は、憲法改正公布を『国民の名で、この憲法と一体を成すもの』としなくて良くなった。

第102条
現憲法では、国民は憲法を尊重しなくても良かったが、草案ではその義務が課せられた。
また、天皇と摂政は、公務員として憲法を擁護する義務を負っていたが、公務員でもなくなり、憲法擁護義務もなくなった。
という事は、天皇は、憲法に書いてある国事などもしなくて良い事になる。

まとめ
全体に天皇権限が強化され、憲法をほぼ無視できる状態になった。
国民の義務や国による国民への支配が盛り込まれた。
個人の自由や権利が大きく損なわれた。
国家神道が復活した。
戦争がしやすくなった。
婚姻の自由と平等が無くなった。
外向きだったのが内向きになった。
『法律の定める(ところにより)』がいくつも追加され、憲法外しの傾向がある。
『何人』や『すべて』の一部が『国民』に置き換えられ、日本国籍保有者に限定する傾向がある。
個人として尊重されなくなり、個人は家族に支配され、家族は国に支配される構図が盛り込まれた。

「とくダネ!」や「ZERO」で、メインキャスターが番組の最初から最後まで1人でしゃべり続けて、アシスタントの女性が横にいるだけのマスコットになってしまって、恐らく、大変精神的苦痛を受けているのではないかと思っているのだが、他の人では番組の間が持たなくて放送事故になるからやむを得ないかと思ったりもするのだが、仕事をしているのに仕事がない窓際族も彼女らに準ずる苦痛を受けているのではないかと思われる。
大きな注目を受けながら、これといった仕事のない天皇も彼女らと同様の苦痛を受けているのではないかと思われ、人権侵害の観点から、天皇制は廃止すべきではないか。

自民党サイトには、改憲草案Q&Aもあるが、憲法を決めるのは自民党ではなく国民だから、後世に残るのは憲法だけであり、Q&Aの憲法解釈は実質的に無効だ。