簡単で難しい夏休みの自由研究


@ 水がこぼれても大丈夫なように台所で、プラスチック製計量カップを水で満杯にし、発泡スチロールのトレイ(以降、板)でふたをし、板を手で押さえたまま、ひっくり返す

A 板から手を離しても、水がこぼれない事を確認する

水も板も空気より比重が重いから、本来なら落下するはずだが、そうならない理由を考える。
例えば、水の分子間力、表面張力、下から大気圧がかかっているからなどが考えられる。
分子間力や表面張力の類は、例えば、雨上がりに濡れた落ち葉や土が靴にくっついたりするような場合の水の吸着力と考えれば良い。

B カップの水量を変更し、水がこぼれるまで板に重りを載せることで、水量と吸着力の関係を調べ、表やグラフにする。あるいは、重りの代わりに板が外れるまでバネバカリで引っ張っても良い。

水本来の吸着力によるものであれば、カップの淵を浸す程度の水量でも板は落ちないはずだが、実際は落ちる。
板の代わりに、紙を使うと、しばらくの間は吸着するが、すぐに落下する。
ということは、水の吸着力では弱すぎるということになる。
大気圧がその地点における大気の比重の事なら、それが全方向からカップを押す事になるから、下からも押しているはずだと考えられるが、それよりも水や板の方が比重が大きいからありえない。
そのため、分子間力や表面張力や大気圧以外の未知の力が働いていることが予想できる。

C カップの代わりに椀などの間口の広い容器を水で満杯にし、Bと同様の手法で吸着力を調べ、カップと比較する

Cによって板と水の接触面の大きさが吸着力に与える影響が調べられる

D カップを水で満杯にし、板を載せ、今度は手で押さえずにひっくり返すと板が落下し、水がこぼれるのを確認する

E カップを水で満杯にし、板を載せ、手で押さえてひっくり返した後、手を離し、そのままカップを横に傾けても水がこぼれないのを確認する

DEの現象のメカニズムについて考察する

F 濡らした紙で空のカップのふたをして手で押さえてひっくり返してもしばらくしたら落ちるが、紙がカップ内部に少し押し込まれるまで強く押すと落ちなくなる理由についても考える

DEFについては、容器を逆さまにしてもプリンや豆腐が落ちない事や、ペットボトルを逆さまにしても中の水がなかなか落ちない事も考える必要があるだろう

G 大気圧は、上空5000メートルごとに半分になる。富士山頂上で3800メートルほどである。大気圧が下がれば、どの程度吸着力が下がるか推察する。また、無重力状態では大気圧はゼロになるが、その場合もどうなるか推察する。

板を手で押さえなかったら落ちて、押さえると落ちなくなるのは、カップ内部の空気が、カップの外に排出されるからであると考えられる。
すると、未知の力とは、真空力であることが分かるだろう。
真空力とは、真空(大気よりも圧力の低い空間)があらゆる物質を吸い寄せる力の事である。
例えば、掃除機が真空力を利用して物を吸い込んでいる。
水と板が落ちない理由が真空力だと考えると、ふたを外すと水は流れ落ちるのに、プリンや豆腐が落ちない理由も説明がつく。
水と豆腐の違いは、流動物か固形物かの違いである。
流動物は分子間力が弱いため、手で持とうとしても流れ落ちるが、固形物は分子間力が強いため、手で持つことができる。
下図は、A図の断面図である。
赤色の領域が、真空状態になっており、それに接している水の一部とカップと板を吸着させている。
真空と接していない部分の水は、真空力の影響を受けないから、板が外れると下に落下するというわけである。
プリンや豆腐は、固形物だから、どこか一部分でも真空に接していれば板がなくても落下する事はない。
つまり、真空は実質的に板だけをカップに吸着させており、水の大半は板に乗っかっているに過ぎないのである。
真空は、板+水の質量の板を吸着しているわけである。
こう考えると、水量や水と板の接触面積の広さが、カップと板の吸着力に影響をほとんど与えなくても説明がつく。

以上の説が、もし正しければ、満杯のカップに予め濡らした板を載せ、手で一度押さえて空気を外部に排出しておけば、手を放したままでカップを傾けても板も水も落下しないはずである。
実際、試すと落下しないから、この説の正しさが証明される。
もちろん、これは満杯の場合だけであり、水が半分程度しか入っていない場合は、失敗する。
その場合は、@のように一度、ひっくり返るまで手で押さえておく必要がある。
一度ひっくり返してしまえば、手を離したままひっくり返す動作を繰り返しても板と水が落下しないのは、中の水と空気が真空によってカップと板に張り付いている水膜の中でのみ動いているからである。
水膜は、ひっくり返しても動かない。
真空は、水をひっくり返した際に、水の重みが空気を押しのけて作られる。
計量カップの代わりにコップなどの縦長容器を使う場合は、水を満杯にしておかないと上手くいかない。
逆に、アイスクリームなどの浅底容器を使うと水量よりも空気量の方が多くても上手くいく。

参考文献:「身近な現象の化学」日本化学会編 培風館 p.154